犬山忠宏
税理士事務所/FPオフィスp.1

INFORMATION

確定拠出年金の掛金拠出プランニング

2016.09.09

1     個人型確定拠出年金の最大のメリット

平成29年1月から、個人型確定拠出年金の加入者の範囲が拡大し、基本的にすべての人が加入できるようになるため、個人型確定拠出年金に対する関心が高まっています。個人型確定拠出年金のメリットはいくつかありますが、その最大のメリットと言えるものは「掛金が全額所得控除の対象となる」というものです。

所得控除とは所得税や住民税の計算上所得から差し引くことができるもので、結果として税率を掛ける元になる課税所得が減るため税金を少なくすることができます。個人が単に銀行で定期預金をしたり、証券会社で投資信託を購入しても所得控除には関係ありませんが、確定拠出年金を通じて定期預金をしたり投資信託を購入すればその掛金は全額所得控除の対象になります。これに似たような制度として一定の個人年金保険料を支払った場合に受けられる生命保険料控除があります。この控除額は平成24年以降の契約の個人年金保険では所得税で40,000円(支払保険料等80,000円以上)、住民税で28,000円(支払保険料等56,000円以上)が限度です。これに対し、確定拠出年金の掛金に係る所得控除は掛金の全額がその対象になり、掛金の限度額が所得控除の限度額になります。個人型確定拠出年金の掛金の限度額は平成29年1月以降の制度では、国民年金の被保険者の種別や企業年金等の加入状況等によって変わりますが、最少で年間144,000円、最大で816,000円となります。

この所得控除は課税所得のある方でしたら確実に税金を減らす効果があります。投資信託による運用は必ずしも運用益を見込めるわけではありませんが、所得控除による税金の削減は確実な運用益と同等と見ることができます。ただし、平成29年1月から加入できるようになる専業主婦等の課税所得がそもそもない方はこの所得控除のメリットを受けられないことに注意が必要です。

 

2     所得控除による税金削減効果

それではこの所得控除による税金削減効果は具体的にどのくらいあるのでしょうか。税金の削減額は、「掛金×税率」で計算されます。住民税の税率は基本的に一律10%ですので常に掛金の10%の住民税が削減されることになります。一方、所得税の税率は課税所得金額が増えるにしたがって段階的に5%、10%、20%、23%、33%、40%、45%となりますので、課税所得金額によって所得税の削減額は変わってきます。

課税所得金額は所得金額から所得控除の額を差し引いた金額になります。収入が給与所得だけの場合年収200万円から1,000万円まで適用される所得税の最高税率がどのようになるのか試算してみました。(図表1)社会保険料は対象は給与収入のみとし、簡便的に給与収入に平成28年8月現在の料率を掛けたものとしています。健康保険は全国健康保険協会管掌(東京都)とし、介護保険料を含んだものとしています。厚生年金保険料率と雇用保険料率は一般の事業のものとしています。所得控除は基礎控除と給与から控除される社会保険料にかかる社会保険料控除のみとしています。

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これを税率区分で分けてグラフにしたものが図表2になります。

図表2

課税所得                                   単位:万円

%e7%b5%a6%e4%b8%8e%e5%8f%8e%e5%85%a5%e5%88%a5%e8%aa%b2%e7%a8%8e%e6%89%80%e5%be%97%e3%81%ae%e9%81%a9%e7%94%a8%e7%a8%8e%e7%8e%87給与収入

課税所得は配偶者控除や配偶者特別控除を受けられる場合、生命保険料控除など他の所得控除を受けられる場合にはその分減少します。給与収入が増えてグラフの青の部分(税率5%)よりも黄色の部分(税率10%)、黄色の部分よりも赤の部分(税率20%)で掛金の所得控除を受けた方が所得税の削減額は多くなります。上記の例では給与収入1,000万円までは課税所得金額に応じて所得税、住民税合わせて掛金の15%(所得税5%+住民税10%)から30%(所得税20%+住民税10%)の税金削減効果があることがわかります。

 

3     掛金拠出プランニング

60歳まで毎年掛金を限度額まで拠出できる方はそうすることが所得控除による税金削減効果を最大化することになります。しかし、なかなかそこまでの余裕がない場合も多いと思います。その場合には掛金の拠出額を自分のライフプラン上、相対的に高い税率が適用される課税所得の高い時期にできるだけ掛金を多く拠出することが所得控除による税金削減効果を高めることになります。

課税所得の推移を予測するためには自分の所得金額の予測と所得控除額の予測が必要になります。所得金額の予測は自営業者の方は難しいかもしれませんが、会社員の方なら自分の会社の平均的な賃金カーブを大まかに予測することもできるのではないでしょうか。給与所得控除額を控除することを忘れないようにしてください。所得控除額の予測はまず結婚していれば配偶者控除を受けられるか、また、いつ受けられるかを考慮します。次に、子供がいる方は子供が16歳から18歳までは38万円、19歳から22歳まで(大学へ進学するとして)は63万円の扶養控除が自分が何歳のときに受けられるのかを確認します。さらに、生命保険料控除や地震保険料控除など他の所得控除があればそれも考慮します。社会保険料控除は会社員の方は現在の収入に対する負担率で大まかに予測します。

適用税率が変わる195万円、330万円、695万円、900万円などの課税所得金額に注意して、上記の予測から60歳までのうちいつ頃が適用税率が高くなりそうか判断します。その時期にはできるだけ限度額いっぱいまで掛金を拠出するようにすると所得控除による税金削減効果が大きくなります。事前の予測は難しいかもしれませんが、適用税率が変わる上記の課税所得金額を超えてきたら掛金の拠出額を増やすという意識を持っておくとよいと思います。

 

このコラムは2016年9月9日に「YAHOO!JAPANファイナンス NISA/投信ページ」に掲載されました。

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