犬山忠宏
税理士事務所/FPオフィスp.1

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年収1,000万円になっても思ったほど貯蓄できない理由

2016.08.17

1     会社員の年収と手取り額

「会社員で年収1,000万円」と聞くと高額所得者で貯蓄も多い富裕層というイメージがあります。しかし、金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]平成27年調査結果」によりますと世帯年収1,000~1,200万円未満世帯のうち13.5%が保有金融資産0、保有金融資産0を含めて300万円未満の世帯が18.3%もあります。この世帯の保有金融資産0の割合は年収750~1,000万円未満世帯の11.2%よりもむしろ多くなっています。

年収1,000万円と言ってもそこから税金や社会保険料が引かれますので手取り額は少なくなります。年収によって手取り額はどのように変化するのでしょうか。収入が給与所得だけの場合年収200万円から1,000万円まで手取り額がどのようになるか試算してみました。(図表1)社会保険料は対象は給与収入のみとし、簡便的に給与収入に平成28年5月現在の料率を掛けたものとしています。健康保険は全国健康保険協会管掌(東京都)とし、介護保険料を含んだものとしています。厚生年金保険料率と雇用保険料率は一般の事業のものとしています。所得控除は基礎控除と給与から控除される社会保険料にかかる社会保険料控除のみとしています。所得税には復興特別所得税を含みます。住民税の所得割は課税所得の10%、均等割は5,000円で計算しました。給与収入別手取り額

表中の「手取り率」は給与収入に対する手取り額の割合を示しています。また、「増加手取り額」は左隣の給与収入から収入が100万円増加したときの手取り額の増加額になります。

年収が400万円から500万円に100万円増えたときに手取り額は73.2万円増えますが、年収が900万円から1,000万円に増えたときは手取り額は62.1万円しか増えません。11.1万円も少なくなります。これには二つの要因があります。一つは給与所得控除額は給与収入に比例しておらず、給与収入が多くなるにしたがってその増え方が少なくなるためです。給与収入が500万円のとき給与収入に対する給与所得控除額の割合は30.8%であるのに対し、給与収入が1,000万円のときには22.0%しかありません。給与所得控除額は給与収入1,200万円のときの230万円が上限となり、平成29年以降は給与収入1,000万円のときの220万円が上限となります。もう一つは所得税の税率が超過累進税率となっており、課税所得が高い区分の金額には高い税率が適用されるためです。給与収入500万円のときの課税所得232.5万円に対する所得税13.8万円は5.9%であるのに対し、給与収入1,000万円のときの課税所得591.1万円に対する所得税77.1万円は13.0%になります。

このような要因により年収が高くなると所得税の負担率が高くなり手取り額の伸びが抑えられます。年収1,000万円のときの手取り額は712万円で「手取り率」は71.2%です。意外と少ないのではないでしょうか。年収が1,000万円になっても思ったほど貯蓄できない理由の一端はここにあります。

 

2     年収1,000万円に潜む支出の増加

年収が高くなると手取り額の伸びは抑えられますが、手取り額は増えます。家計の支出額が以前と同じであれば増えた手取り額の分貯蓄ができるはずです。しかし、思ったほど貯蓄ができていない場合には支出額も増えてしまっているということです。教育費や住宅費などライフステージ上増えざるを得ない支出もありますが、収入が増えることで支出を抑える意識が薄れてしまうことがあると思います。

「年収1,000万円だから」と少し高めの住宅を少し多めの住宅ローンで購入したり、子供の教育費は惜しまずに小学校や中学校から私立に通わせたりなどライフプランの十分な検討もなく行ってしまうこともあるのではないでしょうか。あるいは、「年収1,000万円だから」と毎週家族で外食したり、食材や嗜好品に少しいいものを選んだり、車や趣味に少しお金をかけたりしてしまいがちではないでしょうか。年収の範囲で足りなくなるほどは支出しなくても収入とほぼ同額の支出をしてしまっていては貯蓄はできません。

年収1,000万円の手取り額は思っているほど多くはありません。「年収1,000万円」という聞き心地のよいイメージに惑わされずに支出を抑えることが貯蓄を増やすためには必要です。

 

このコラムは2016年6月10日に「YAHOO!JAPANファイナンス NISA/投信ページ」に掲載されました。

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