1 J-REITの一般的なメリット
不動産投資というとアパートやマンションなどのオーナーになり賃貸収入を得るものというイメージが頭に浮かびますが、間接的に不動産に投資するJ-REITというものがあります。J-REITとは投資家から資金を集めオフィスビル、商業施設、ホテル・リゾート、マンションなどへ投資し、そこから得られる賃貸収入や売却益を投資家へ分配する商品で「不動産投資信託」と呼ばれています。現在60余りの銘柄が上場されており、平均分配金利回りは4%前後です。投資先は同じ「不動産」ですが、一般的にJ-REITには現物不動産に直接投資するアパート・マンション経営にはない次のようなメリットがあります。
- (1)小口の投資が可能で流動性が高い。
アパート・マンション経営では1棟(1部屋)の投資額は通常百万、千万円単位ですが、J-REITは銘柄によって異なりますが1口1万円台から60万円台程度で投資できます。また、アパート・マンションを売る場合通常何カ月かかかりますが、J-REITは証券取引所に上場されていますのですぐに売却することができます。
- (2)物件、地域の分散投資がやりやすい。
アパート・マンション経営では1棟(1部屋)の投資額が大きいため通常いくつもの物件に投資することは難しいですが、J-REITは銘柄内でも複数の物件に投資されています。保有されている不動産の用途や地域などを調べて投資すれば比較的容易に用途・地域を分散した投資をすることができます。
- (3)空室リスクが小さい。
アパート・マンション経営では部屋数が比較的少ないため一部屋の空室が収益に対して相対的に大きな影響を与えます。また、物件の入れ替えは簡単にはできないため設備や立地条件等の変化に対応しにくく空室のリスクがあります。J-REITの稼働率は平均で98%以上になっています。(コロナ禍による今後の稼働率の低下傾向には注意が必要です。)
- (4)手間がかからない。
アパート・マンション経営を自分で行う場合には入居者の募集、契約・更新事務、賃料の徴収・管理、建物・設備のメンテナンス、クレーム対応などかなり手間がかかります。管理会社に代行してもらうことはできますがコストがかかります。J-REITは不動産経営の専門家により運営されておりこうした手間はかかりません。また、アパート・マンション経営では記帳や申告の手間やコストもかかりますが、J-REITは記帳や申告は基本的に不要です。
2 所得の違いによるメリット
アパート・マンション経営による賃貸収益は不動産所得となり給与所得や年金などの雑所得があればそれらと合算されて総合課税となります。合計した所得金額が多くなれば所得税の高い税率が適用される部分の金額が大きくなり税負担が重くなります。また、会社を退職して国民健康保険になるとその保険料は所得金額が増えるとそれに応じて増えることになります。介護保険料も所得金額に応じて段階的に高くなっていきます。
一方、J-REITの分配金は配当所得となり20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の源泉徴収がなされます。この分配金は確定申告をして「総合課税」または「申告分離課税」を選択することができますが、確定申告をせずに「申告不要」とし20.315%の源泉徴収だけで済ますこともできます。上場株式等の譲渡損失がある場合には「申告分離課税」を選択すれば損益通算をすることができます。また、枠内であればNISAを利用して非課税で分配金を受け取ることができます。(確定申告をしてもJ-REITの分配金は配当控除は受けられませんので注意が必要です。)
「申告不要」とした分配金は国民健康保険料や介護保険料の計算の基礎となる所得金額には含まれませんのでこれらの保険料が上がることはありません。状況によっては所得税は確定申告、住民税は申告不要として、より税負担が少なくできる場合もあります。
3 J-REITのデメリット
上記のメリットがある一方J-REITにはアパート・マンション経営に比較して次のようなデメリットがあります。
- (1)利回りの限界がある。
J-REITの分配金利回りは価格の暴落時を除いて継続的に8%を超えることはほとんどありません。平均的には3~6%程度となることが多いようです。アパート・マンション経営では物件の取得・経営等に工夫や努力をすることによって場合によっては10%以上の利回りを実現することも可能です。
- (2)借入金の活用がしにくい。
金融機関からの借入金を活用してJ-REIT投資の規模を拡大することは一般的には難しいと思われます。
- (3)株式相場の影響を受ける。
J-REITの価格は直接的には不動産市況と関係のない株式相場全体の上昇・下降の動向に影響を受けます。
- (4)信用リスクがある。
J-REITを運用している不動産投資法人には倒産や上場廃止となるリスクがあり投資元本の一部または全部を失うリスクがあります。
- (5)相続税の評価額を低くできない。
相続財産として見た場合土地・建物はその相続税評価額は一般的に時価よりも低く評価され、さらに貸アパート・マンションは貸家や貸家建付地として一定の評価減が適用されます。J-REITの相続税評価額は時価(株式市場での取引価格)となり、時価より低くすることはできません。
J-REITは株式と同様に値動きがあり元本が保証されているものではありません。不動産投資を考えている場合アパート・マンション経営、J-REITそれぞれのメリット、デメリットをよく検討されることをお勧めします。(最近のコロナ禍による賃料の減免や稼働率の低下等がJ-REITの価格や分配金に与える影響については特に十分な注意が必要です。)
このコラムは2020年9月19日に「マネーの達人」に掲載されました。