1 昇給額に係る所得税
新年度に入り昇進・昇格やベースアップなどにより昇給があった方も多いと思います。給料のアップは誰しもうれしいものです。4月の給与明細のアップ額を見て早くもその使い道に思いを馳せている方もおられると思います。しかし、昇給額がそのまま手取りで増えるわけではありません。まずはその昇給額に応じて所得税が増えることになります。
所得税は「超過累進税率」といって高い所得の部分には段階的に高い税率がかかってきます。また、給与所得の金額を計算するうえで給与収入から差し引かれる給与所得控除額は、給与収入の金額に応じて計算されますが、給与収入が高くなるにしたがって段階的にその割合が少なくなります。
たとえば年額で給与収入が5,000,000円、社会保険料がその15%の750,000円、その他の所得控除が基礎控除380,000円、配偶者控除380,000円だったとした場合所得税(復興特別所得税を含む。)がいくらになるかみてみましょう。給与所得控除額を控除した給与所得控除後の金額は3,460,000円でそこから所得控除額の計1,510,000円を引いた1,950,000円が課税される所得金額になります。これに税率をかけ、1,950,000円×5.105%=99,500円(百円未満切捨)が税額になります。
この人が年額200,000円昇給した場合に所得税がいくら増えるか計算してみます。社会保険料は給与収入の15%の780,000円とします。給与収入が5,200,000円の場合給与所得控除後の金額は3,620,000円となり所得控除額の計1,540,000円を引いた2,080,000円が課税される所得金額になります。これに税率をかけ、2,080,000円×10.21%-99,548円=112,800円(百円未満切捨)が税額になります。
200,000円の昇給に対して、112,800円-99,500円=13,300円の所得税がかかってきます。年収5,000,000円総額に対する所得税の負担率は、99,500円÷5,000,000円=約2.0%ですが、昇給額の200,000円に対して新たにかかる所得税の負担率は、13,300円÷200,000円=約6.7%にもなります。年収総額に対する負担率でイメージしていると昇給額に対する負担率は思ったより高いのではないでしょうか。
2 後から来るその他の負担
昇給したことで増える負担として所得税のほかに住民税と社会保険料があります。住民税は当年分の所得に対して計算された税額が翌年6月から翌々年5月に給与から徴収されます。今回昇給した額に対する負担は1年以上たってから来ることになります。また、住民税は超過累進税率ではなく一律10%の税率ですが、収入から給与所得控除額を引いて給与所得の金額を計算するのは所得税と一緒です。そのためやはり年収総額に対する負担率よりも昇給額に対する負担率は高くなります。
社会保険料の中で雇用保険料は料率が低いので大きな負担にはなりませんが、厚生年金保険料と健康保険料は合わせて給与収入の14%~15%程度にもなります。(健康保険組合によってはもう少し低い場合があります。)正確には段階的に保険料が決められているため昇給額に対しての負担率は上下することはあります。また、所得税や住民税では税率がかけられる金額は給与収入から給与所得控除額や所得控除の金額を引いた金額ですが、これらの保険料率は基本的には給与収入(段階的に決められた標準報酬月額)にそのままかかります。毎年通常4、5、6月の給与に基づいて標準報酬月額が決定され、9月分の保険料(多くの場合10月給与で引かれる保険料)から適用されます。4月に昇給がありその昇給により標準報酬月額が増えた場合その保険料の負担は半年先の10月からということになります。(昇給額などが大きい場合にはもう少し早く保険料が改定される場合があります。)
このように昇給額に対する税金や社会保険料の負担は意外に大きく、また、後から負担が来るものが多いので、昇給額の額面だけを見て支出を予定しないように注意してください。
このコラムは2018年5月18日「YAHOO!ファイナンス NISA/投信ページ」に掲載されました。