犬山忠宏
税理士事務所/FPオフィスp.1

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老後一人になったときの年金減少リスク

2017.06.13

1     老後のキャッシュフロー表

50代になり子育ても一段落し、老後資金の準備を考えるにあたって老後のキャッシュフロー表を自ら作成したり、FPに依頼して作成してもらったりする方も多いと思います。65歳以降の収入として夫婦二人の年金の見込額を調べて、支出として現在の生活状況や一般的な家計支出データなどから老後の生活費を予測します。収入より支出の方が多ければ貯蓄を取り崩していかなければなりませんのでその不足額の20~30年分程度の額と予備費の額を準備する必要があるということになります。

夫婦二人の年金が月額で二十数万円、支出額に対して数万円~5万円程度不足という場合も多いと思います。2万円不足の場合30年で720万円、5万円不足の場合でも30年で1,800万円ですからこれを退職金と貯蓄額でカバーできるように老後資金を準備すればキャッシュフロー表の資産残高はずっとプラスで作成することができます。(特別なイベント支出は考慮していません。)

しかし、これは夫婦二人が30年健在だった場合を前提としています。人の寿命はわかりませんので夫婦のうちどちらかがある年齢で先に亡くなるという想定のキャッシュフロー表は通常作らないと思います。夫婦のうちどちらかが先に亡くなった場合夫婦二人分の年金はもらえなくなりますのでその場合の家計のキャッシュフローも想定して資金準備をする必要があります。

 

2     一人になったときの年金

配偶者が亡くなった場合一定の要件を満たすと、その亡くなった方の配偶者は遺族年金が受給できます。ここでは夫婦とも65歳以上で遺族基礎年金の支給要件となる子供(18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子など)がいない場合で老齢厚生年金の受給権があった方が亡くなったときに、その亡くなった方の配偶者がどのくらいの年金を受け取れるかをみてみましょう。

夫婦ともに自分の老齢基礎年金、老齢厚生年金を受給していた場合でたとえば夫が先に亡くなったときに妻が受け取る年金は次のうち最も多くなるものを選択できます。

(1)妻の老齢基礎年金+妻の老齢厚生年金

  1. 妻の老齢基礎年金+夫の老齢厚生年金×3/4
  2. 妻の老齢基礎年金+妻の老齢厚生年金×1/2+夫の老齢厚生年金×1/2

(2)の場合は「夫の老齢厚生年金×3/4-妻の老齢厚生年金」の金額が、(3)の場合には「夫の老齢厚生年金×1/2-妻の老齢厚生年金×1/2」の金額が遺族厚生年金として支給されることになります。(1)の場合には遺族厚生年金はなく、妻は自分の老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取るだけになります。

夫婦それぞれの老齢厚生年金の額によって(1)から(3)のどれが多くなるかは変わってきますが、家計にとって年金の収入金額のうちそれぞれ次の額に相当する部分が減少することになります。

  1. の場合: 夫の老齢基礎年金+夫の老齢厚生年金
  2. の場合: 夫の老齢基礎年金+夫の老齢厚生年金×1/4+妻の老齢厚生年金
  3. の場合: 夫の老齢基礎年金+夫の老齢厚生年金×1/2+妻の老齢厚生年金×1/2

妻が先に亡くなったときに夫が受け取る年金も同様になります。夫婦それぞれの老齢基礎年金があまり変わらない場合一人になると家計の年金収入は4割から5割減る場合もでてきます。

 

3     一人になったときの家計のリスク

夫婦のうちどちらかが先に亡くなると上記のように家計の年金収入が半減してしまうこともあります。一方、家計の支出は一人になったからといって二人のときの1/2には必ずしもなりません。固定資産税・家屋の維持費用または住居の賃借料、水道光熱費、通信費、車の維持費用などを考えてみるとわかると思います。食費も食材の量は減少しますが、少量の購入で割高になったり、外食や出来合いの惣菜の購入が増えてしまったりしてなかなか1/2にするのは難しいと思われます。そうすると家計の毎月の貯蓄の取り崩し額が増えてしまいますので貯蓄が途中で底をついてしまう恐れもあります。

また、遺族厚生年金として支給される部分は非課税となりますが、(1)のように自分の老齢基礎年金+老齢厚生年金をそのままもらい続ける場合非課税となる部分はありません。妻が先に亡くなって夫が自分の老齢基礎年金+老齢厚生年金をそのままもらい続ける場合、配偶者控除の適用がなくなり所得税や住民税の負担が増える場合がありますので注意が必要です。夫と死別した妻は合計所得金額が500万円以下であれば寡婦控除がありますが、妻と死別した夫には総所得金額等が38万円以下の生計を一にする子がいないかぎり寡夫控除の適用はありません。

老後のキャッシュフロー表は夫婦二人の家計で作成することが基本ですが、どちらかが先に亡くなった場合残された方のキャッシュフローがどうなるか検討し準備をしておくことも必要です。また、夫婦がお互いにご自身と伴侶の健康に気を付けて夫婦そろって長生きすることが老後のライフプラン上大切なことと思います。

 

このコラムは2017年6月9日に「YAHOO!ファイナンス NISA/投信ページ」に掲載されました。

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