1 確定拠出年金の拠出時の減税効果
個人型確定拠出年金の大きなメリットとして次の3つの税制優遇があります。
- 拠出時:掛金が全額所得控除の対象となる
- 運用時:運用益に課税される税金が非課税
- 受取時:一定の控除が受けられる
- (注:受取時は他の退職金や公的年金等の状況によってはメリットがない場合があります。)
この中でも拠出時の税制優遇は所得税や住民税を払っている人であれば確実に受けられるメリットで、その額もけっこう大きなものとなります。メリットがあると言われてもどのくらいの減税効果があるのか具体的にはわからないという方も多いと思います。その減税効果を見てみましょう。
- 所得税
所得税は「課税される所得金額」によって税率が変わってきますのでその所得金額によって減税効果による減税額も変わってきます。「課税される所得金額」に適用される所得税率は図表1のようなイメージです。
たとえば、「課税される所得金額」が400万円だった場合、195万円までの部分は5%、195万円から330万円までの135万円の部分は10%、330万円を超える70万円の部分は20%の所得税が課税されることになります。「課税される所得金額」は会社員の方なら源泉徴収票の
「給与所得控除後の金額」-「所得控除の額の合計額」
で計算できます。
それでは確定拠出年金の掛金を払った場合いくらの減税があったのかを計算してみましょう。たとえば月12,000円、年額144,000円の掛金を払って年末調整で所得控除を受けて「課税される所得金額」が300万円だったとします。この場合確定拠出年金の掛金144,000円がなければ「課税される所得金額」は3,144,000円だったわけですから、税率10%がかかる部分の所得金額が144,000円少なくなったことになります。したがって、
144,000円×10%=14,400円
の税額が減少したということです。同じ場合で「課税される所得金額」が320万円だった場合には330万円が税率の境目ですので税率20%がかかる部分の所得金額が44,000円、税率10%がかかる部分の所得金額が100,000円減少したことになります。税額の減少額は
44,000円×20%+100,000円×10%=18,800円
となります。
さらに2037年までは所得税額の2.1%の復興特別所得税もありますので、上記の14,400円の所得税の場合、
14,400円×2.1%=302円
の税額も合わせて減少しています。
- 住民税
住民税の税率は所得税のように段階的に上がっていくものではなく一律10%(超過課税のない自治体の場合)ですので、確定拠出年金の掛金の額に10%を掛けた金額が税額の減少額になります。
2 運用よりも大事なこと
上記の「課税される所得金額」が300万円だった場合では合計で29,102円の減税効果が得られたことになります。「課税される所得金額」によって変わってきますが掛金に対する減税額の率はこの場合20.21%です。現在の定期預金の金利とは比べものになりません。投資信託でもコンスタントにこの率の運用益を獲得することはかなり難しいでしょう。
ところでこの減税額はどのようにもたらされるのでしょうか。所得税及び復興特別所得税は会社員など年末調整で所得控除を受けた場合には一般的には12月の給与で税額の還付が受けられます。一方、自営業の方など確定申告で所得控除を受けた場合には税額の還付を受ける場合もありますが、納付する税額が少なくなることが多いと思います。また、住民税では還付ではなく、掛金を払った翌年の6月から翌々年の5月の間に給与から控除される(納付する)税額が少なくなります。
このように掛金の拠出による減税額は全額が還付を受ける形で受け取るものではありません。また、その額は通知されるものではなく自分で計算してみないとわかりません。減税額があることを意識してその額を別途貯蓄しないと家計費の中に紛れて何も残らないということになってしまいます。減税額を引いた掛金で減税額を引く前の金額の積立てができていると考えれば確かに得はしています。しかし、今まで一般の定期預金の積立てをしていたのを確定拠出年金に変えたとすると何もしなければ税引き後の手取り額が増えてその分家計の支出が増えてしまうということにもなります。それではせっかくの税制優遇を老後資金の準備に充てることにはなりません。
確定拠出年金はその運用(売ったり買ったりということだけでなく資産配分も含めて)も確かに大事ではあります。しかし、確実な運用益に匹敵する掛金拠出時の減税額を把握してそれを確実に貯蓄(投資)していくことがより大事なことではないでしょうか。その貯蓄があることで元本確保型の金融商品にこだわらない運用もできるようになるかもしれません。
このコラムは2017年2月10日に「YAHOO!ファイナンス NISA/投信ページ」に掲載されました。